「異世界ファンタジーで15+1のお題」四
007:哀しい眼差し




「騒々しいな!
何事だ!」

眉間に皺を寄せ、不機嫌な表情で扉を開けたのは、痩せた背の低い男だった。
落ち窪んだ瞳から発せられる鋭い視線は、どこか邪悪なものを感じさせる。



「も、申し訳ございません!
この者が、どうしても大臣にお会いしたいと言い張りまして…」

「だ、大臣様ですか!
私、シャーリーと言います。
大臣にじきじきにお願いがあって、参りました。」

「シスター風情が、わしに何の用があるというのだ。
帰れ、帰れ!」

「お願いです!
どうか、私の願いをお聞き下さい!」

シャーリーは、男の目をかいくぐって大臣の傍へ走ると、足元に跪き、すがるような眼差しで大臣を見上げた。
大臣は、そんなシャーリーの顔をまじまじとみつめる。



「……わざわざ、こんなところまでやってきて、わしにどんな願いがあるというのだ。」

「じ、実は……私をシスター長にしていただきたいのです!」

「なんだと?おまえをシスター長にだと?」

「は、はいっ!
シスター・ロザンナは、最近はミサにもお姿を現されません。
お身体が悪いのか、何なのか詳しい事情はわかりませんが、そうでなくとも、シスター・ロザンナはもうずいぶんとご高齢です。
それに引き換え、私はまだ18です。
若いだけではなく健康です。どこも悪い所はありません。」

「まだ18の小娘が、シスター長になりたいだと…
ずいぶんと不遜なことを考えるものだな。」

大臣はシャーリーを見下ろし、鼻で笑った。
シャーリーは、その言葉にそっと目を伏せた。



「……だが、わしはそういう身のほど知らずの女が嫌いではない…」

大臣の指が、シャーリーの細い顎を上向けた。



「シャーリーとか言ったな。
……意志の強い良い目をしておる。
おまえはなぜシスター長になりたいのだ?」

「……わ、私は、大臣のため、昼夜を厭わず一生懸命働いておりますが、それにしては報われるものが少な過ぎます。
私に与えられている権限は少なく、いただけるお金も以前の教会と変わらない。」

シャーリーは気持ちの悪さから目を逸らしたくなる衝動を必死に堪え、大臣の瞳をしっかりと見据え、そう答えた。
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