もうひとつのエトワール
眼鏡を押し上げながらにっこり笑ったその顔は、同性から見ても十分可愛い。
男ウケを狙ったあざとい女の笑顔は幾度も目にしたが、真希が醸し出す可愛らしさにはいやらしさがない。
どうしたらそんな風に可愛く笑えるものか、思わずじっくり観察してしまう。
笑顔のまま、またコテっと首を傾げた真希をまじまじと見つめていると
「おい菜穂、お前そんなに真希ちゃんをじっくり見つめて……まさか、食べるつもりか」
わざとらしい驚きの表情を顔に貼り付けた棗が現れた。
「誰が食うか、この天然ボケボケ娘を」
「あっ、菜穂さんひどいです!私、ボケボケなんてしてません」
いつもは真っ先に否定する“天然”をスルーしてしまっている事は誰も突っ込まずに、そのままサラッと流して棗は扉の方へと真希を誘う。
菜穂の予想通り、髪をバッチリセットした様子の棗は、いつもの上下白のコックコートとは真逆の黒で私服を統一し、こちらも隙なくキメている。