志ーこころー 【前編】─完─
近藤「……松野くん……」
近藤さんが重い口を開いた。
なんだ?まだあたしに用があるの??
志乃「まだなにか?」
あたしは無表情で答える
近藤「君は、未来から来たんだよね?」
……どうやら最後の確認らしい。
志乃「はい。150年後の未来から来ました。」
近藤「…………ならば」
すぅ、と息を吸い込んだ近藤さん。
意を決したように 言う
近藤「私たちの未来はどうなるのだ?」
志乃「……。」
その場に静かに響く、息を呑む声。
それは、みんなが耳を傾けていることを物語る。
希望と、好奇心。
それらがないまぜになった、熱い視線。
周りの痛いほどの視線に、あたしは、きっと思いっきり目を泳がせているはず。
でも……でも、あたしはその期待には応えられない。
答えられるはずがないじゃないか
拷問に掛けられたけど、彼らは後に新撰組となる。
……その末路は、誰もが知っている通り、最悪だ。
悲劇の最後を遂げたから、有名な集団としてあたしの時代まで語り継がれているのに。
酷い目に合わされたとはいえ、他人の不幸な未来を予言することに、決していい気持ちにはならない。
答えなきゃ、だめ……?
残酷な未来を、あたしは告げなければいけないの……?
土方「……近藤さん、それは聞いちゃだめだと思うぜ?」
以外にも、助け舟を寄こしたのは土方だった。
土方「俺たちの未来は、俺たちが決めるんだよ。
……誰かに予言されて、鵜呑みにするようじゃ……ましてやこんな小娘の語る未来にしがみつくなんざぁ……。
それは、武士失格じゃねェのか?」
……思わず、土方を見つめる。
その顔は、自信を持った人間のものではなく、当然、とでも言った表情か。
その強い光をたたえた瞳は、真っ直ぐに、近藤さんのもとへとつづいている。
そんな土方をみて、今、少しだけ、分かった気がした。
鬼の副長と呼ばれ、恐れられるコイツが、なぜ慕われるのか。
皆は、きっとこの姿に敬意を抱くのだ。
土方の、その生き様に惚れ、ついて行く。
こいつの下(もと)なら、きっと連れていってくれるかもしれない。
この男の信じる、武士道と言う名の、真っ直ぐで、儚い、誠へ。
近藤「……そうだな……。
いやぁ、すまんかった、松野くん。
……それに、歳たちにもすまんことをしたな。」
先程までの厳しさは過ぎ、いまは、少しだけ顔をしかめていた。
厳(いか)つい顔を緩めると、その顔は、みんなの頼れるお父さんのようだった。
その姿に、ついついあたしも頬を緩めてしまう。
いいな、家族みたい……。
すると、近藤さんがこちらを振り向いた。
近藤「……ところで話が反れるが……
松野くん。……きみはどうして瞳の色が違うんだい?」
今度は、あたしが顔を渋らせる番のようだ。
多分、近藤さんは純粋に、不思議に思っただけなんだと思う。
こんな事聞かれるくらいなら、まだ疑われたほうがましだったかも……なんて思う自分がいる。
あたしのこの赤い目。
何度潰そうと思ったか、もはや数えることはできない。
普通と、あまりにもかけ離れたこの目。
普通じゃないこの目。
周りの反応は、慣れたから。
大丈夫。恐くない。
あたしはもう、その感情は捨てたんだから。
それでも、心臓の、痛みを孕んだ脈打ちは、治まることを知らないように、どんどん速く打ちつける。
震える手を握り、あたしは息を吸って、吐いた。
大丈夫。大丈夫。
恐くない。恐くないから……。
淡々と、努めて冷静に語り出した。