男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「はい、伝わっておりますよ。」
「{それで飛ばしたデータは見つけたんですが…ロックが掛かってしまっているようで、内科のところに戻せないし、そもそもファイルが開けないんですよ。あと、【シャットダウンしてないのに勝手に電源が切れるパソコン】も1台あるようで。…あっ、それは外科のものなんですが…。}」
「さようでございますか。少し状況を整理させていただきますね。現在、不具合が起きているパソコンが2台あり、1台が患者様の電子カルテのデータを入力中に、データを何かの拍子にどこかへ飛ばしてしまった。その後、そのデータファイルは見つけたものの…元の場所に戻せないし、開けない状態。これが内科のパソコン。もう1台の外科でお使いのパソコンが【シャットダウンしてないのに勝手に電源が切れる状態】ということですね。これは【いつから】とか【何回切れた】など、お分かりになりますでしょうか?」
観月くんが私の対応をニコニコしながら聞いている。
おそらく、指示は無かったけど【いつから】とか【何回切れた】とか、さらに詳細を聞いたのが良かったのかもしれない。
「{昨日の午後から3回ほどあったとは…外科の松浦先生には聞いています。}」
「3回ほど…ですね。畏まりました。【電源が切れてしまうパソコン】については松浦様を中心に外科の先生方に状況をお伺いするよう、申し伝えます。」
ー緊急性が高いので、おそらく今から出向くことになります。
伺っても良いか、誰が対応して下さるのか聞いて下さい。ー
私は、観月くんに頷き返した。
「それでですね。一度“上の者”に確認致しますが、もし今からそちらに伺った方が良いということになった場合、伺っても差し支えございませんか?…また、そうなった場合どなた様がご対応いただけますか?」
「{今から来られるということでしたら、私が対応できます。…あとは大丈夫です。伝え忘れ…無いと思います。}」
「承知致しました、その旨も申し伝えます。」
「{また今から当院へ来られるということでしたら、そちらを出発する際に内科のナースステーションへの直通電話にてご一報いただければ幸いです。}」
「畏まりました、お心遣いありがとうございます。…それでは。〔開発営業部 営業1課〕の、私…姫野が承りました。失礼致します。」
私は受話器を定位置に置いた。
「“雅姉さん”、お疲れ様でした。電話対応、完璧でしたね。……樹、〔部長室〕からサーバー用の"Key Release"持ってきて。今は部長居るから開けてもらえるし。」
「了解。護、ちょっとついておいで。」
「はい!」
"Key Release"…我が社が作ってる【ロック解除ソフト】ね。
PCというものは…数々の【認証作業】が必要だったりする。
購入後、最初に行う【ライセンス認証】が代表的なものだけれど、データファイルの予期せぬサーバー移動などの際にも、これが必要になる場合がある。
“機械オンチの常務のおかげで、データファイルの行方が分からなくなったこと…何回もあったな。
その度に本条課長が、〔第二役員室〕まで来てくれたのをよく覚えている。
それから【ロック解除ソフト】は当たり前だけど、悪用および乱用は禁止だ。
だから、普段はドアにナンバーロックが掛かる〔部長室〕に保管されているのだと…今気づかされた。
「観月、状況は?」
別の電話対応を終えた課長が、"Aチーム"の机まで来てくれた。
「課長、その前に…。[新宿南総合]の外科のPCの型番って、【何シリーズ】でしたっけ?…“姉さん”、課長に状況説明お願いします。電話の内容をそのまま伝えて下さい。俺ちょっと今〔開発〕と連絡取り合ってるので。」
観月くんの手は、私たちと話しながらもキーを高速で叩いている。
「…ん?[新宿南総合]の外科なら、【TS5 ・TS6シリーズ】で揃えてあるが…。」
…ん?【TS5・TS6シリーズ】!?
うそー!? 2世代は前よ?…きっと寿命ね。
「【シャットダウンしてないのに複数回…電源が勝手に切れる状態のPC】と、【電子カルテのデータを別サーバーに意図せず飛ばして…元のサーバーに戻せずファイルを開けない状態のPC】があるようです。【電源が勝手に落ちるPC】については、『松浦先生に尋ねて下さい。』とのことでだったので外科の先生方に聞けば良いかと。それから、定期メンテの先方の希望日時はこちらです。」
「あぁ、なるほど。まぁ…寿命だな。カルテ作れないのは先方としては困るだろうから、代替品の手配ができたらすぐ行ってくる。ついでに新品の発注かけといてくれ。【PST2】盤なら【TS6シリーズ】の上位モデルだし…良いだろ。姫野さんに発注のかけ方を教えながらだと、より良い。」
「もちろんです、課長。“姉さん”、あとでやりましょう。」
「はい、よろしくお願いします。」
私は観月くんに、ハッキリと返事を返した。
「それにしても、観月。状況判断早くなったな。俺が来るまでに必要物品の手配まで終わらせといてくれてサンキューな、助かった。姫野さんへのフォローもしっかりしてて感心したよ。…姫野さん。メンテの方の用件も分かった、ありがとう。戻ってきたら、チームで日程調整するから。」
本当にそれです、本条課長。
観月くんの判断が早くて正確で助かりました。
「日程調整の件も了解しました。樹たちにも伝えておきます。……いえ、俺の方が勉強になりました。言葉遣い、発音、丁寧な対応…どこを取っても【良い電話対応】でした。こんな電話対応してくれるなら、お客様は穏やか気持ちになるでしょうね。俺も言葉遣い直さなきゃな…。」
「そうだな…。内線で不具合の連絡あった時、俺も穏やか気分になってたぐらいだから、お客様は間違いなく安心されるだろう。姫野さんは"電話対応のプロ"だから、いろいろ盗んで吸収しろよ。」
課長はちょっと懐かしむような口調で、そんなことを言い出す。
その節は大変お世話になりました。
でも、やめて下さい課長。
…は、恥ずかしいです。
それはそうと…。
あの、【異動の話し合い】の時から何となく思うんだけど…。
本条課長の、穏やかに喋ってる時の声と口調やっぱり安心するな…。
…うん!?今なに考えてた!?私…。
「課長、それは違いますよ。本当の"電話対応のプロ"は、我が社の〔カスタマーサービス課〕の人たちですよ。」
〔相談部 カスタマーサービス課〕は、いわゆる電話相談窓口だ。
PCの不具合、操作方法のナビゲーション、クレーム対応など…【お客様から様々な相談を1番最初に受ける】部署である。
「はは。確かに、〔カスタマーサービス課〕の人間には敵わないかもしれないが…。十分だよ。観月は良い刺激になったようだし。」
「{それで飛ばしたデータは見つけたんですが…ロックが掛かってしまっているようで、内科のところに戻せないし、そもそもファイルが開けないんですよ。あと、【シャットダウンしてないのに勝手に電源が切れるパソコン】も1台あるようで。…あっ、それは外科のものなんですが…。}」
「さようでございますか。少し状況を整理させていただきますね。現在、不具合が起きているパソコンが2台あり、1台が患者様の電子カルテのデータを入力中に、データを何かの拍子にどこかへ飛ばしてしまった。その後、そのデータファイルは見つけたものの…元の場所に戻せないし、開けない状態。これが内科のパソコン。もう1台の外科でお使いのパソコンが【シャットダウンしてないのに勝手に電源が切れる状態】ということですね。これは【いつから】とか【何回切れた】など、お分かりになりますでしょうか?」
観月くんが私の対応をニコニコしながら聞いている。
おそらく、指示は無かったけど【いつから】とか【何回切れた】とか、さらに詳細を聞いたのが良かったのかもしれない。
「{昨日の午後から3回ほどあったとは…外科の松浦先生には聞いています。}」
「3回ほど…ですね。畏まりました。【電源が切れてしまうパソコン】については松浦様を中心に外科の先生方に状況をお伺いするよう、申し伝えます。」
ー緊急性が高いので、おそらく今から出向くことになります。
伺っても良いか、誰が対応して下さるのか聞いて下さい。ー
私は、観月くんに頷き返した。
「それでですね。一度“上の者”に確認致しますが、もし今からそちらに伺った方が良いということになった場合、伺っても差し支えございませんか?…また、そうなった場合どなた様がご対応いただけますか?」
「{今から来られるということでしたら、私が対応できます。…あとは大丈夫です。伝え忘れ…無いと思います。}」
「承知致しました、その旨も申し伝えます。」
「{また今から当院へ来られるということでしたら、そちらを出発する際に内科のナースステーションへの直通電話にてご一報いただければ幸いです。}」
「畏まりました、お心遣いありがとうございます。…それでは。〔開発営業部 営業1課〕の、私…姫野が承りました。失礼致します。」
私は受話器を定位置に置いた。
「“雅姉さん”、お疲れ様でした。電話対応、完璧でしたね。……樹、〔部長室〕からサーバー用の"Key Release"持ってきて。今は部長居るから開けてもらえるし。」
「了解。護、ちょっとついておいで。」
「はい!」
"Key Release"…我が社が作ってる【ロック解除ソフト】ね。
PCというものは…数々の【認証作業】が必要だったりする。
購入後、最初に行う【ライセンス認証】が代表的なものだけれど、データファイルの予期せぬサーバー移動などの際にも、これが必要になる場合がある。
“機械オンチの常務のおかげで、データファイルの行方が分からなくなったこと…何回もあったな。
その度に本条課長が、〔第二役員室〕まで来てくれたのをよく覚えている。
それから【ロック解除ソフト】は当たり前だけど、悪用および乱用は禁止だ。
だから、普段はドアにナンバーロックが掛かる〔部長室〕に保管されているのだと…今気づかされた。
「観月、状況は?」
別の電話対応を終えた課長が、"Aチーム"の机まで来てくれた。
「課長、その前に…。[新宿南総合]の外科のPCの型番って、【何シリーズ】でしたっけ?…“姉さん”、課長に状況説明お願いします。電話の内容をそのまま伝えて下さい。俺ちょっと今〔開発〕と連絡取り合ってるので。」
観月くんの手は、私たちと話しながらもキーを高速で叩いている。
「…ん?[新宿南総合]の外科なら、【TS5 ・TS6シリーズ】で揃えてあるが…。」
…ん?【TS5・TS6シリーズ】!?
うそー!? 2世代は前よ?…きっと寿命ね。
「【シャットダウンしてないのに複数回…電源が勝手に切れる状態のPC】と、【電子カルテのデータを別サーバーに意図せず飛ばして…元のサーバーに戻せずファイルを開けない状態のPC】があるようです。【電源が勝手に落ちるPC】については、『松浦先生に尋ねて下さい。』とのことでだったので外科の先生方に聞けば良いかと。それから、定期メンテの先方の希望日時はこちらです。」
「あぁ、なるほど。まぁ…寿命だな。カルテ作れないのは先方としては困るだろうから、代替品の手配ができたらすぐ行ってくる。ついでに新品の発注かけといてくれ。【PST2】盤なら【TS6シリーズ】の上位モデルだし…良いだろ。姫野さんに発注のかけ方を教えながらだと、より良い。」
「もちろんです、課長。“姉さん”、あとでやりましょう。」
「はい、よろしくお願いします。」
私は観月くんに、ハッキリと返事を返した。
「それにしても、観月。状況判断早くなったな。俺が来るまでに必要物品の手配まで終わらせといてくれてサンキューな、助かった。姫野さんへのフォローもしっかりしてて感心したよ。…姫野さん。メンテの方の用件も分かった、ありがとう。戻ってきたら、チームで日程調整するから。」
本当にそれです、本条課長。
観月くんの判断が早くて正確で助かりました。
「日程調整の件も了解しました。樹たちにも伝えておきます。……いえ、俺の方が勉強になりました。言葉遣い、発音、丁寧な対応…どこを取っても【良い電話対応】でした。こんな電話対応してくれるなら、お客様は穏やか気持ちになるでしょうね。俺も言葉遣い直さなきゃな…。」
「そうだな…。内線で不具合の連絡あった時、俺も穏やか気分になってたぐらいだから、お客様は間違いなく安心されるだろう。姫野さんは"電話対応のプロ"だから、いろいろ盗んで吸収しろよ。」
課長はちょっと懐かしむような口調で、そんなことを言い出す。
その節は大変お世話になりました。
でも、やめて下さい課長。
…は、恥ずかしいです。
それはそうと…。
あの、【異動の話し合い】の時から何となく思うんだけど…。
本条課長の、穏やかに喋ってる時の声と口調やっぱり安心するな…。
…うん!?今なに考えてた!?私…。
「課長、それは違いますよ。本当の"電話対応のプロ"は、我が社の〔カスタマーサービス課〕の人たちですよ。」
〔相談部 カスタマーサービス課〕は、いわゆる電話相談窓口だ。
PCの不具合、操作方法のナビゲーション、クレーム対応など…【お客様から様々な相談を1番最初に受ける】部署である。
「はは。確かに、〔カスタマーサービス課〕の人間には敵わないかもしれないが…。十分だよ。観月は良い刺激になったようだし。」