男嫌いな“淑女(レディ)”の口説き方
「観月くん、ありがとう。そんな風に言ってくれて嬉しい。でも、今の電話は1人じゃ今日はできなかったと思う。何を聞くのかも分からなかったし、『聞いて下さい。』って言われたことが抜け落ちてないかなって…すっごく不安だった。だけどすぐにメモで指示くれたし…最悪、対応代わってくれるって言ってくれたし。…それに。笑顔で隣に居てくれたから安心して対応できたよ。」
「俺は、俺と樹が新人の頃に“指導係”だった課長から【してもらえて嬉しかったこと】を、そのまま“雅姉さん”にしただけですよ。」
そう言った観月くんの笑顔は、とてもキラキラしていて課長への信頼と尊敬の念をひしひしと感じられた。
「観月、お前…。」
課長はそんな言葉に一瞬目を見開いて驚き、すぐに表情を緩めて口角を上げた。
そして、私たちと喋りながらでもキーボードを叩いていた観月くんの手が【Enter】を押して入力を終えると、課長にこう伝える。
「さて。課長、〔開発1課〕の西澤主任と話つきました。結城課長が今急きょ営業に出てったみたいで【TS6】の【29Z】が今すぐ用意できる"同仕様のもの"だそうです。話は通してあるので、病院行く前に〔生産棟〕に寄って下さい。すぐ貰えます。」
「ありがとう。【29Z】なら、まぁ…大丈夫だろ。」
「…あっ。課長、電話対応終わりました?……“シュウ”。結局、病院誰が行くの?」
「俺が行ってくるよ。」
〔部長室〕から戻ってきた桜葉くんが、課長とそんなやり取りをする。
「あっ。じゃあ、"Key Release"要らなかったですかね?」
「いや、【備えあれは憂いなし】だ。必要かもしれないから持ってくよ。桜葉ありがとう。……津田。桜葉から説明されたと思うが、セキュリティソフトの類いは…鍵の掛かる〔部長室〕に置かれてる。『取りに行ってくれ。』って頼むこともあると思うから覚えておいてくれ。」
「はい。」
「じゃあ。2時間ぐらいで戻ると思うが、行ってくる。部長には言ってから行くから、何かあったら内線で呼べばいいよ。……観月、桜葉、津田。姫野さんのこと、いろいろ頼むな。なるべく彼女が1人にならないようにして。」
「任せて下さい、課長。」
観月くん、桜葉くん、津田くんが得意気に言った。
「ありがとうございます、課長。……行ってらっしゃいませ。」
「あぁ、ありがとう。行ってきます。」
こうして、本条課長は[新宿南総合病院]へ向かっていった。
「姫ちゃん、ごはん行こ。…それで、ちょっと相談なんだけど…社食でも良い?立花さんも一緒に食べたいってことだったから。…やっぱり、みんなの視線とか話し声とか気になりそう?」
課長が営業に出てから、もう1時間半が経っていたみたいで…柚ちゃんがランチに誘い来てくれた。そしてその後ろに立花さんの姿も見えていた。
「社食ね。正直、視線も話し声も気になると思う。みんな好き勝手に言ってくるから。だけど柚ちゃんも立花さんも一緒だから、こういう時こそ頑張りたい…。1人で頑張れる時と無理な時があって、今日は1人じゃないしチャンスかなって。」
「姫ちゃん……。いつも頑張ってるよね、大丈夫?無理してない?」
「うん、無理はしてないよ。」
「あれ?鈴原さん、社食行かないの?」
〔部長室〕から出てきた鳴海部長が、こちらに向かって歩いてくる。
「もう行きますよ、鳴海部長。」
「あー。姫野さんを誘ってたのか。」
「あっ、そうよー。姫野さんに差し障りが無ければ部長も一緒にランチすれば…思わぬ解決策出してくれるかも。」
立花さんからの提案に私は驚き、部長が"どういうこと?"という顔をしている。
私は事情を説明した上でご一緒してもらえるか尋ねた。
「なるほどね、いいよ。行こうよ、僕としても大切な部下たちから話が聞ける貴重な時間になるしね。あと、奢るよ。」
…えっ!?奢っていただくなんて申し訳ないですよ、部長。
「やったぁ!さすがは“貴公子”。」
「もう、立花さん。調子良いんだから。ホント、蛍の前でもその調子だといいのにね。」
「ホントに蛍の前でもその調子だといいのにね。」なんて言ってる部長に対して、立花さんが「なんでそこで朝日奈課長が出てくるんですか!?」と抗議の声を上げている。
クスッ。やっぱり彼女は、朝日奈課長が好きなのね…。
まぁ。それはいいとして…。
2人とも、奢ってもらう気満々なんですけど…。
私は心の中で苦笑いした。
そういえば…。本条課長、まだ戻ってきてないみたい。
長引いてるのかな。
「姫野さん?…どうしたの?何かまだ不安要素ある?」
「いえ、何でもありません。」
「そう?……とりあえず周りが気になったら、"僕たちとの会話"に集中してればいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そんなことを話しながら、私たちは社員食堂へ向かった。
そして、やっぱり社食に着くや否や私たちは注目を集め…騒がれてしまう。
無理もないか。私が社食に顔出すなんて滅多にないし…鳴海部長も一緒に居るから。
「姫野さん、何がいい?メニュー。」
あっ、ボーッとしちゃった。いけない。
結局、私と鳴海部長は和食のAセット…柚ちゃんと立花さんは洋食のBセットのランチを注文した。
「部長ー!こっちこっち!俺たちの後ろの2テーブル空いてたんで取っときましたよ。」
声のする方を見れば、〔開発1課〕の結城課長と西澤主任と、朝日奈課長。それから、観月くんと桜葉くんが5人で昼食を摂っていた。
「おっ、観月くんナイス!さすが"昴のお気に入り"だけあって、気が利くね。」
部長は注文カウンターの前から、そんな言葉を返していた。
周りが喋ってる音が、ものすごい大きな騒音に聞こえてしまう。
これ自体で強姦事件のことを思い出すことはないけど…付き合いで合コンに連れていかれて、そのあと絡んできた嫌な男の顔が浮かんでくる。
「姫ちゃん?気分悪い?…あっ。もしかして。みんなの声、騒音に聞こえる?」
「うん。でも、もうちょっと頑張って居たい…ここに。2年前にここに来た時は、入らず…入り口の前で覗いただけで逃げちゃったから…。」
私は柚ちゃんに力なく返答を返した。
「姫野さん、騒がしいのは苦手だったんだね。頑張るのは良いことだけど、無理は禁物だよ……柚。2人の分、俺が持っていってあげるから…先に姫野さんと席着いてな。」
部長が私たちにしか聞こえない声のボリュームで言う。
「はい。」
柚ちゃんが私の肩をしっかり抱いて支えつつ、そんな部長とやり取りをしている。
「姫野さん。騒がしいの、苦手だったのね。ごめんなさい、私が鈴原さんに『今お金ないから、社食でお願いできたら…。』ってお願いしちゃったから…。」
柚ちゃんと一緒に観月くんが取ってくれた席に行こうと歩き出した時、立花さんが小声で本当に申し訳なさそうに眉を下げて謝ってくる。
「立花さん。大丈夫ですよ、騒音に聞こえちゃうのは2,3分も居れば治まってくるものですから。」
私は笑顔でそう答えた。
【作り笑い】じゃない笑顔で言ったけど、少し力なく言ってしまったせいか…彼女に私の真意は伝わっていないなと感じた。
みんなが着席したら改めて伝えよう。
私に症状が出てるのは誰のせいでもないし、私は今自分の意思でここに居ると――。
「俺は、俺と樹が新人の頃に“指導係”だった課長から【してもらえて嬉しかったこと】を、そのまま“雅姉さん”にしただけですよ。」
そう言った観月くんの笑顔は、とてもキラキラしていて課長への信頼と尊敬の念をひしひしと感じられた。
「観月、お前…。」
課長はそんな言葉に一瞬目を見開いて驚き、すぐに表情を緩めて口角を上げた。
そして、私たちと喋りながらでもキーボードを叩いていた観月くんの手が【Enter】を押して入力を終えると、課長にこう伝える。
「さて。課長、〔開発1課〕の西澤主任と話つきました。結城課長が今急きょ営業に出てったみたいで【TS6】の【29Z】が今すぐ用意できる"同仕様のもの"だそうです。話は通してあるので、病院行く前に〔生産棟〕に寄って下さい。すぐ貰えます。」
「ありがとう。【29Z】なら、まぁ…大丈夫だろ。」
「…あっ。課長、電話対応終わりました?……“シュウ”。結局、病院誰が行くの?」
「俺が行ってくるよ。」
〔部長室〕から戻ってきた桜葉くんが、課長とそんなやり取りをする。
「あっ。じゃあ、"Key Release"要らなかったですかね?」
「いや、【備えあれは憂いなし】だ。必要かもしれないから持ってくよ。桜葉ありがとう。……津田。桜葉から説明されたと思うが、セキュリティソフトの類いは…鍵の掛かる〔部長室〕に置かれてる。『取りに行ってくれ。』って頼むこともあると思うから覚えておいてくれ。」
「はい。」
「じゃあ。2時間ぐらいで戻ると思うが、行ってくる。部長には言ってから行くから、何かあったら内線で呼べばいいよ。……観月、桜葉、津田。姫野さんのこと、いろいろ頼むな。なるべく彼女が1人にならないようにして。」
「任せて下さい、課長。」
観月くん、桜葉くん、津田くんが得意気に言った。
「ありがとうございます、課長。……行ってらっしゃいませ。」
「あぁ、ありがとう。行ってきます。」
こうして、本条課長は[新宿南総合病院]へ向かっていった。
「姫ちゃん、ごはん行こ。…それで、ちょっと相談なんだけど…社食でも良い?立花さんも一緒に食べたいってことだったから。…やっぱり、みんなの視線とか話し声とか気になりそう?」
課長が営業に出てから、もう1時間半が経っていたみたいで…柚ちゃんがランチに誘い来てくれた。そしてその後ろに立花さんの姿も見えていた。
「社食ね。正直、視線も話し声も気になると思う。みんな好き勝手に言ってくるから。だけど柚ちゃんも立花さんも一緒だから、こういう時こそ頑張りたい…。1人で頑張れる時と無理な時があって、今日は1人じゃないしチャンスかなって。」
「姫ちゃん……。いつも頑張ってるよね、大丈夫?無理してない?」
「うん、無理はしてないよ。」
「あれ?鈴原さん、社食行かないの?」
〔部長室〕から出てきた鳴海部長が、こちらに向かって歩いてくる。
「もう行きますよ、鳴海部長。」
「あー。姫野さんを誘ってたのか。」
「あっ、そうよー。姫野さんに差し障りが無ければ部長も一緒にランチすれば…思わぬ解決策出してくれるかも。」
立花さんからの提案に私は驚き、部長が"どういうこと?"という顔をしている。
私は事情を説明した上でご一緒してもらえるか尋ねた。
「なるほどね、いいよ。行こうよ、僕としても大切な部下たちから話が聞ける貴重な時間になるしね。あと、奢るよ。」
…えっ!?奢っていただくなんて申し訳ないですよ、部長。
「やったぁ!さすがは“貴公子”。」
「もう、立花さん。調子良いんだから。ホント、蛍の前でもその調子だといいのにね。」
「ホントに蛍の前でもその調子だといいのにね。」なんて言ってる部長に対して、立花さんが「なんでそこで朝日奈課長が出てくるんですか!?」と抗議の声を上げている。
クスッ。やっぱり彼女は、朝日奈課長が好きなのね…。
まぁ。それはいいとして…。
2人とも、奢ってもらう気満々なんですけど…。
私は心の中で苦笑いした。
そういえば…。本条課長、まだ戻ってきてないみたい。
長引いてるのかな。
「姫野さん?…どうしたの?何かまだ不安要素ある?」
「いえ、何でもありません。」
「そう?……とりあえず周りが気になったら、"僕たちとの会話"に集中してればいいよ。」
「はい、ありがとうございます。」
そんなことを話しながら、私たちは社員食堂へ向かった。
そして、やっぱり社食に着くや否や私たちは注目を集め…騒がれてしまう。
無理もないか。私が社食に顔出すなんて滅多にないし…鳴海部長も一緒に居るから。
「姫野さん、何がいい?メニュー。」
あっ、ボーッとしちゃった。いけない。
結局、私と鳴海部長は和食のAセット…柚ちゃんと立花さんは洋食のBセットのランチを注文した。
「部長ー!こっちこっち!俺たちの後ろの2テーブル空いてたんで取っときましたよ。」
声のする方を見れば、〔開発1課〕の結城課長と西澤主任と、朝日奈課長。それから、観月くんと桜葉くんが5人で昼食を摂っていた。
「おっ、観月くんナイス!さすが"昴のお気に入り"だけあって、気が利くね。」
部長は注文カウンターの前から、そんな言葉を返していた。
周りが喋ってる音が、ものすごい大きな騒音に聞こえてしまう。
これ自体で強姦事件のことを思い出すことはないけど…付き合いで合コンに連れていかれて、そのあと絡んできた嫌な男の顔が浮かんでくる。
「姫ちゃん?気分悪い?…あっ。もしかして。みんなの声、騒音に聞こえる?」
「うん。でも、もうちょっと頑張って居たい…ここに。2年前にここに来た時は、入らず…入り口の前で覗いただけで逃げちゃったから…。」
私は柚ちゃんに力なく返答を返した。
「姫野さん、騒がしいのは苦手だったんだね。頑張るのは良いことだけど、無理は禁物だよ……柚。2人の分、俺が持っていってあげるから…先に姫野さんと席着いてな。」
部長が私たちにしか聞こえない声のボリュームで言う。
「はい。」
柚ちゃんが私の肩をしっかり抱いて支えつつ、そんな部長とやり取りをしている。
「姫野さん。騒がしいの、苦手だったのね。ごめんなさい、私が鈴原さんに『今お金ないから、社食でお願いできたら…。』ってお願いしちゃったから…。」
柚ちゃんと一緒に観月くんが取ってくれた席に行こうと歩き出した時、立花さんが小声で本当に申し訳なさそうに眉を下げて謝ってくる。
「立花さん。大丈夫ですよ、騒音に聞こえちゃうのは2,3分も居れば治まってくるものですから。」
私は笑顔でそう答えた。
【作り笑い】じゃない笑顔で言ったけど、少し力なく言ってしまったせいか…彼女に私の真意は伝わっていないなと感じた。
みんなが着席したら改めて伝えよう。
私に症状が出てるのは誰のせいでもないし、私は今自分の意思でここに居ると――。