夜叉の恋
鼻腔を擽る、甘く、青臭い香り。
色とりどりの花輪を、寧々は静の頭にはらりと被せた。
思わず面食らう。
寧々が隠しているものが幾数もの花で、それを自分に渡そうとしているのは読めていたが、まさかその花々が花輪で、更にそれを被せられるとは夢にも思わなかった。
「…………」
黙り込んでいる静に寧々が気付く。
溢れんばかりの笑顔は徐々に曇り、大きな目を揺らして不安気に静の顔を覗き込んだ。
「……静さん……嬉しくない? 嫌だった……?」
恐る恐る尋ねる寧々。
静の返答が怖いのか、びくびくとしたその様子は栗鼠そのもの。
そんな寧々に、静は黙って自分の頭に手を遣ると花輪を取る。
「あ」と切なげに寧々が呟いたのも束の間、寧々がぱちりと瞬きをする間に、寧々の栗色の小さな頭を色とりどり花輪が彩っていた。
「……え?」
自分の頭に手を遣って、不思議そうに静の顔を見る。
そんな寧々に、静は表情を変えることなく一言言った。
「私には似合わない」
その言葉に、寧々はふわりと笑った。
そんな、眩しい初夏の昼下がり。
「静さん、喉乾いた」
とてとてと歩きながら呟いた寧々に、静は振り向いた。
「……川なら近くにあるようだぞ?」
耳を澄ませて静がそう言えば、ぱあっと顔を輝かせる。
「ほんと!?」
「ああ。行くか?」
「うん!」
心底嬉しそうに大きく頷く寧々に場所を顎で指してやれば、それを見るや否や転がるように駆けて行く寧々。
余程喉が渇いていたのか、単にせっかちなのか。
静は特に足を速めるでもなく、のんびりと寧々が消えて行った方向に歩いて行った。