キスはワインセラーに隠れて


数日後、遅番の帰りにオーナーの車で家まで向かう途中、私はさっそく藤原さんのことを相談してみた。

運転しながら私の話を聞くオーナーは、ハンドルを握ったまま困ったような表情を浮かべた。


「……あー、雄河に目をつけられたか」


雄河……。ずいぶん親しげに名前で呼ぶんだな。

そう思いつつオーナーの横顔を見つめていると、赤信号で止まった彼が私をちらっと見る。


「ピンチかも。環ちゃん」

「ピンチ……ですよね、やっぱり。泊まりなんて」

「いや、泊まりもそうだけど……」


しばらく黙って赤い光を見つめるオーナー。

それが緑がかった青に変わり動き出した車がスピードに乗る頃、オーナーはその続きをぽつぽつと語り出した。


「雄河は俺の大学の後輩なんだけど……アイツ、あの見た目だから当時からモテてたわけ。
でも、言い寄ってくる女の子の私生活を占い師みたいに当てては、その子を振るっていう非情なヤツでさ」


なるほど、大学の後輩か……親しげなわけだ。

そして非情なヤツっていうのは、私にもなんとなくわかる。


「私生活を当てるっていうのは、どうやって?」

「……匂いだよ。例えば“あんた煙草吸うだろ”とか、“昨日遅くまで酒飲んでただろ”とか。
ひどかったのが、“オッサンの匂いがする。あんたすげー年上と不倫してんだろ”ってのだったな。しかも図星だったし」

「……こわっ!」


私はおおげさに、自分で自分を抱き締める仕草をした。

だって、聞けば聞くほどやばそうなんだもん……藤原さんって。


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