キスはワインセラーに隠れて
香澄さんに笑顔を返してから次に向かったのは、コックコート姿で静かにお酒を飲む須賀さんのところ。
近くで見るまで気が付かなかったけど、トレードマークの長髪が短くなっていた。
「……須賀さん。どうして髪、切っちゃったんですか?」
「ああ……これか。これからは若葉が伸ばすって言うんでな。逆に俺は短くしたってだけだ」
ふ、と小さく笑いながら言った須賀さん。
そっか……若葉さん。相変わらず上手くいっているみたいで何よりだ。
「そういえば、私の事みんなで騙したあの日、須賀さんが言ってた“拘束時間が短い店に――”っていうの。あれも、嘘ですか?」
「……いや、あれは本心だ。若葉は料理人としての仕事だけでなく経営までやってるからな。
一緒になって彼女を支えるには、俺の方は時間にゆとりがある方がいいだろうと思って、営業時間の短いこっちに移らせてもらうことにしたんだ」
……一緒になって、って。
須賀さんと若葉さんってもしかして……!
「ご結婚なさるんですか!」
「まあな。籍は来月には入れようと思ってる」
「わー、おめでとうございます!」
心から嬉しくなって笑顔になる私に、須賀さんは苦笑してこう言う。
「お前の事は、散々振り回して悪かったな。ま、せいぜい藤原と仲良くやれ。ただし、店内でいちゃつかないように」
「そ、そんなことしませんよ!」
……って。すでにさっきロッカー室でしちゃったけど……
これ以上追及されないようにと須賀さんのいるテーブルを離れ、次に視線を向けたのは、なんだか魂が抜けたような顔でテーブルに頬杖をつく本田のところ。
お皿の料理、全然減ってないし……私が女だってことが、相当衝撃だったのかな。