キスはワインセラーに隠れて
――スタッフみんなして私を騙そうとしていたあの日、本田だけは少し遅刻してその計画に加われなかったそうだ。
私が女だと知らなかったのも、そのせい。
なのに、仕掛け人の藤原さんや須賀さんに混じって“俺も辞める”と言い出した時には、みんなかなり驚いたらしい。
そんな、やっぱりとことんイイ奴な本田と次の職場でも一緒になるなら、今度こそ彼の恋を応援したいな。
私なんかよりずっと素敵な人と、幸せになって欲しいもん。
足取りも軽く本田の席を離れ、今度は自分の指定席――藤原さんの隣を目指す。
今回の一連の計画をオーナーに提案したのは、他でもない彼だそう。
ずっとみんなに嘘をついていた私を、今度は逆に騙したらどうかって。
意地悪な彼の思いつきそうなことだけど、思いのほか他のスタッフたちも賛同してくれたらしい。
みんな私が男だと偽っていたことを恨んではいないけど、ちょっとくらい仕返ししてやりたいって思っていたみたい。
「……ホント、うまくだまされちゃいました」
ストン、と椅子に腰をおろし、私は隣の藤原さんに言った。
「ワインセラーで口が滑ったときは、少し焦ったけどな」
「あ……箱詰め作業のこと聞いた時ですよね。“これはあっちの店に持ってく分”――って、このお店のことだったんですね」
「そういうことだ」
「あっちのplaisirのソムリエは誰が?」
「それなら、オーナーがやっと試験受かったらしいから、問題ないだろ」
「なるほど……」