キスはワインセラーに隠れて
……ああもう、藤原さんと話してると疲れる。
そう思ってホイップクリームのたっぷりと乗った自分のマグカップに口を付けた。
こくりと喉を鳴らしてほっと息を付くと、たちまち気分がまあるくなる。
はぁぁ……やっぱり美味しい。
隣でカッコつけてブラックなんか飲んでる藤原さんの気がしれないよ。
そんなことを考えていると、視界の端に何か白いものが映り、隣を向くと藤原さんが私に紙ナプキンを差し出していた。
反射的に私がそれを受け取ると、藤原さんが自分の口元に長い人差し指を当てて言った。
「お前が女なら舐めてやるとこだけど」
な、舐める……? あ、もしかして、何かついてる?
受け取った紙ナプキンで口元を拭うと、付いていたのはチョコレートソース。
「……ほんとだ。ありがとうございます」
教えてくれたのはありがたいけど、もうちょっと普通に指摘できないのだろうかこの人は。
っていうか、今みたいな発言からも、藤原さんはやっぱりモテ男だろうなとしか思えないんだけど……
「あのう」
コーヒーを飲む横顔に声を掛けると、切れ長の瞳がこちらを向く。
私は、二人で座るソファのちょうど中心に置いた紙袋に触れて、気になっていたことを尋ねた。
「この本……自分用、ですか?」
立ち読みしていたくらいだから、きっとそうなんだろうと予想はしているけど。
まさか「藤原さんってフラれてばっかりなんですか」とは聞けないから、そんな遠回りな質問になってしまった。