キスはワインセラーに隠れて
「へ……?」
間の抜けた顔でそう言った私を一瞥すると、今度は少し早口になって藤原さんが説明する。
「だから……一緒にメシを食うとなったら、やっぱりワインの美味い店に行きたいんだよ俺は。
で、気分良く酔うと、絶対にワインのうんちくを語っちまうんだ。しかもかなり饒舌に」
そ、それで、女の人にフラれるってこと……?
「ぷっ……」
「……お前、今笑ったな。タマのくせに」
「だ、だって……!」
まさかそんな理由だなんて、思ってもみなかったんですもん!
こんなにカッコよくて、性格は自己中な俺様。
何より職業がソムリエであるこの人が、ワインのうんちくひとつでフラれまくってきただなんておもしろすぎて……!
声を殺しつつ、けれどうずくまってお腹を押さえるほど爆笑する私に、藤原さんは諦めたように言う。
「同じ店で働く従業員の通勤圏内で、あの本を立ち読みしてた俺が馬鹿だった……」
「そ、そうですね……あー。くるしい、まだ笑い止まりません」
「お前な……」
なんだなんだ。いつもワインセラーに呼び出されると必要以上に緊張してしまうけど、藤原さんも人間らしいところあるんだなぁ。
そんなことを思いながらひとしきり笑って、少し落ち着いたところで、ふと疑問に思う。
「……でも、原因がわかってるなら、こんな本を読むよりもそのうんちく語っちゃう癖の方を直せばいいんじゃないんですか?」
笑いすぎて乾いたのどに甘いコーヒーを補給しながら、私は藤原さんに尋ねる。