LB4
停車した駅で板東と共に改札を出ると、タクシー乗り場は案の定、気が遠くなるほどの行列ができていた。
私たちと一緒に電車を降りた人々が、新しく列をなしていく。
「すごい列だね」
「俺、心が折れそうです……クシュッ」
会社から駅までの道で豪快に濡れたから、体が冷えたのだろうか。
シャツは濡れたまま乾いておらず、背中に貼り付いて肩甲骨の形がくっきり浮き出ている。
この列に並んでもいつタクシーにありつけるかわからないし、電車の運転再開の目処も立っていない。
「ねぇ、うち来る?」
言葉は自然に出ていった。
「え?」
「あんたが寝る場所くらいは作れるよ。シャツとか靴下は今から洗濯して除湿の風当てとけば、明日の朝には乾くっしょ。歯ブラシとか髭剃りとかはコンビニで買えばいいし」
私の提案に、彼は目を丸くした。
「いや、なんていうか。それは助かりますけど」
遠慮を含んだ口調。
助かるけど、女の一人住まいに男の自分が入っていいのかということか。
こんな時でも真面目で律儀。
彼らしい。
だけど、こういう反応をすることは想定内である。
「何ビビってんの。別に襲ったりしねーよ」
「いやいや、普通逆でしょ」
「ほら、行くよ」
「あっ、待ってくださいよ」
別に何も期待していないし、何かしてくるとも思ってない。
ただ、こいつに風邪を引かれるのは困る。
だから私が面倒を見る。
だってこいつは、可愛い後輩なのだから。