LB4
江頭が俺に「今日中に出す」と言った課題は、大体今日中には出ない。
昨日間違っていた問題を解き直して今日再提出するように告げた課題も、今朝「今日中に出す」と言ったきりまだ出ていない。
彼女が「今日中に出す」と言った日はいつも、放課後遅くまで教室に残って、シャーペン片手に頭を抱えている。
それを知っている俺は、部活終了のチャイムが鳴る頃、彼女を迎えに教室へ向かう。
それが昨年度からの恒例になっていた。
教室には二人きり。
そこで数学を教えたり、少しだけプライベートな話をしたり。
今思えば、それが良くなかったのかもしれない。
バカな子ほど可愛いとはよく言ったものだ。
こうして出来の悪い生徒の面倒を見ているうちに、意図せず特別な存在になってしまったのだから。
「おーい、終わったかー?」
教室の扉を開けて声をかけると、江頭は机に突っ伏したままのだらしない姿勢のまま俺に顔を向けた。
「せんせー。全然終わんないよ」
「なんだよ、たったの2問だろ。何時間かけてんだ」
当て付けのように、俺は今日も田中の席に座る。
この席から見る江頭は、特にいい。
夕日に照らされて余計に茶色く染まる髪も、ふっくらした頬も、丸い瞳も、食べてしまいたいほどに愛くるしい。
田中は毎日この光景を見ているのか、うらやましいな。