LB4
彼女はキラキラした飾りがチャラチャラ音を立てる鬱陶しいシャーペンを握って、ノートにぐりぐり意味のない模様を描いている。
間違えていた2問は、数学が得意な生徒であれば20分で片付く程度の問題であるが、終業から2時間たった今でも、ほとんど手を付けられていなかった。
また何か悩んでいるな。
どうせ田中の告白ことだろう。
少し悔しい気持ちで、この席の机を軽く爪で引っ掻いた。
「ねーせんせー」
「ん?」
「先生ってさー、生徒のこと、どう見えてんの?」
ドキッとした。
いきなり何を言い出すんだ。
「何だよそれ。どういう意味?」
聞き返すと、答えは即時返ってきた。
「恋愛的な意味」
もしかして、俺の気持ちがバレたのか?
あたしのこと好きなんでしょ?ってことが言いたいのか?
脇に嫌な汗が滲む。
「恋愛的な意味って……バカか」
俺に聞くなよ。
何の嫌がらせだ。
江頭はシャーペンのぐりぐりをやめないまま、マイペースに話を進めてゆく。
「あたしがフラれたのさー、先生だったんだ」
「は?」
なんだそれ!
いったいどいつだ?
江頭が1年の時の担任か?
確か男の教師だったよな。
俺よりだいぶ年上の。
そんなのにずっと憧れていたのか?
「先生つっても、中学の時のカテキョの先生」
「あぁ……、そういうこと」
ビックリした。
この学校で俺以外の教師に恋愛感情を抱いたのかと思った。
そんなことがあったら、嫉妬でどうにかなってしまいそうだ。
「やっぱ教え子って、恋愛対象にはならないのかなーって、思ってさ」
通常はそうだ。
俺だってつい最近まで、ならないと思っていた。
でも、事情が変わった。
もう笑って「ならねーよ」とは答えてあげられない。
「そいつのことを、諦められないのか?」
そう問うと、彼女はシャーペンをパタリとノートに落とした。
「ううん、とっくに諦めてる。でもまだ好き」
「で?」
「田中に告られた」
「で?」
「田中にも興味出てきた」
……ああ、そうかよ。
やっぱりな。
「じゃあ付き合えば?」
突き放すような言い方が気に入らなかったのか、江頭は怒った顔で頭を起こした。