LB4

“タケシ”

そう呼んだ江頭の声のトーンやイントネーションが、別れた彼女が俺を呼ぶ時のそれと、全く同じだった。

当たり前にそう呼ばれているような、妙な感覚がした。

“えみ”

真似をして呼び返してみると、その名は驚くほどしっくり俺の体に溶け込んだ。

別れた彼女と同じ、2文字の名前だったからだろうか。

呼び間違えたりしなかったことに、心から安心した。

名前を呼んだ後、俺は自宅の最寄り駅の名前だけを口に出して、教室を去った。

それから残務を片付けて、車に乗り、自宅に向かって走らせる。

途中、試しに最寄り駅のロータリーに入ってみると、俺の車を見つけた女子高生が、当然のようにこちらに向かって歩いてきた。

学校の駐車場で、車種はチェック済みだったというわけか。

程よいところで車を停めると、すぐに助手席の扉が開く。

無言で俺の車に乗り込み、扉を閉め、手早くシートベルトを着ける。

カチッという響きを確認した俺は、彼女の方を見ることなく、発進させた。

今高校生の間で絶大な人気を誇っているというバンドのポップな曲が、助手席と運転席の間に渦巻く沈黙を中和させてくれていた。

ロータリーから県道に出て、線路を渡り、路地に入って約2分。

車を停めたところで、江頭がやっと口を開いた。

「ねえ」

「ん?」

怖じ気づいてやめる気になったのだろうか。

覚悟を決めたことは無駄になるが、彼女の意思を尊重できるくらいの理性はまだ残っているはずだ。

「キスして。ここで」

「は?」

「車の中でキスするの、憧れてたの」

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