LB4
ガヤガヤしている教室から、
「あれー? えみ、昨日出して帰るって言ってなかったっけ」
「あ、うん。やったんだけど終わんなくて」
「そーなんだ。今日も残るの?」
「ううん。昼休みに終わらせる」
という女子生徒たちの会話をピックアップして満足を得る。
たとえ昨夜数学に手をつけられなかった理由を承知していても、容赦しない。
それを示すことで、俺と彼女の間に存在する暗黙の了解を少しだけ明らかにしておく。
俺たちは、教師と生徒であると。
今後、彼女が課題を遅れて出すことはない。
放課後教室で二人きりになることもない。
彼女の目的は、達成されたのだから。
俺は羽ばたく彼女を見守ることに徹すればいい。
江頭と田中が付き合い始めたのは、それから約1ヶ月経過してからだった。
彼らはそれから卒業まで、学年内では有名なケンカップルとして、良好な関係を続けているようだった。
「タケシ、いつまでそんなもん見てんの」
横から声をかけられて、顔を上げた。
「いいだろ、別に。懐かしんでるんだよ」
と言っている間に彼女が俺の膝の上からそれを取り上げる。
『卒業アルバム』と呼ばれるそれは、彼女が開いたままぞんざいに持ち上げたことで、小さくミシッと音を立てた。
大切なものなのに、もしかして真ん中の折り目のところが破れたのではないかと焦ったが、無事だった。
ホッ。
「タケシ、若っ!」
「お前だって」
俺と彼女が同じページに写っているのは、このページだけである。
可憐な女子高生だった彼女も、こう見るとすっかりおばさんになってしまった。
なんて言ったら殴られそうだが。
この間は自身の頭に白髪が増えてきたと騒いでいたし、笑うと目尻にシワが寄るからと、毎晩高価なクリームをたっぷり塗り込んでいる。