LB4

「カスだなんて、自分でわかってますよ」

だけど自分で認めてしまうには虚しすぎる。

「少女マンガみたいに“俺が幸せにするからついてこい”とか、そういうカッコイイこと言えなくてすみませんね。どうせお飾りのキンタマです」

自嘲を浮かべると、彼女が怒り顔を俯かせた。

壁に突き立てられたパンプスがザザザと音を立てて降りてゆく。

ヒールが地面に着くと、彼女の頭が俺の胸に当たる。

抱き締めて、いいのだろうか。

迷って少し手を上げたけれど、社内の誰かに見られたらまずいと思ってやめた。

「あんたの性欲を満たすだけの行為に、本気で悩んでるあたしって、バカみたいよね」

突然の女口調に、ゾクッとした。

彼女は今、姉御キャラの殻を破ったのだ。

「何言ってるんですか」

性欲を満たしたかっただけじゃない。

少なくとも俺の方には愛があったのに。

本気で悩んでるって一体どういう意味で?

「会社ではこんなだけどね。あたし、身も心もちゃんと女なの」

次第に鼻声になり、一歩後退した彼女の顔を見て、ハッと息を飲んだ。

クライアントからどんなにキツいことを言われても涙など見せなかった彼女の瞳が濡れていた。

「あたしみたいなもんが、自分が頑張るより相手に来てもらいたいって思っちゃダメかな?」

緊張と恋心と罪悪感から来るドキドキで、視界と膝が震えた。

どんな言葉をかけたら良いか、どんなふうに動けば良いか、皆目見当もつかない。

俺は壁に貼り付いたまま、手も足も口も動かすことができなかった。

そのまま、十数秒。

「ごめん。もういいや。よくわかった」

「えっ?」

わかったって、何が?

俺はまだ何も理解できていないのに。

彼女が涙を手の甲で拭って歩きだす。

コツコツと上品なヒールの音を響かせて。

俺、今正解がわかった。

あの時、迷って手を下ろすんじゃなかった。

誰に見られたって、構わず抱き締めればよかったんだ。


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