LB4

彼女が触れていた指でぐいっと俺の口周りを拭った。

指はパールのような何かでキラキラしている。

「いいって思ってなきゃ、部屋になんて入れない。身体も許さないし、泣くほど悩んだりしない」

「じゃあ……」

彼女は自分の唇の周りをも軽く拭って、いつもの姉御顔でニヤリと笑んだ。

「みんなには、内緒ね」

言って階段を降りて行く。

「相澤さん!」

舞い上がってこのまま飛べるような気さえする。

しかしこの幸せな現実を噛み締めるため、俺は一歩一歩踏みしめるようにして彼女を追った。

「下のトイレで顔拭いて、さっさと事務所に戻るぞ。特に松本さんにバレると毎日イジられて厄介だ」

「ははっ、そうですね」

「俺が何だって?」

ビクッ!

階段の踊り場で折り返した瞬間、缶コーヒー片手に、階段の手すりに寄り掛かっている松本課長がお目見え。

察するに、一部始終を聞いていたのだろう。

「げっ、松本さん」

彼女が思いきり嫌な顔をすると、課長は獲物を見つけたような怪しい笑みを浮かべて俺と彼女を見る。

「いや、あの、課長……」

俺は何か弁解を試みるが、うまい言葉は見つからない。

「朝から部下二人の濃厚キスシーンを見せられた俺は、さすがにこれ以上階段を昇れなかったんだけど、何か言いたいことは?」

ああ、これでイジられるのは決定したというわけか。

オドオドする俺。

一方で相澤さんは腕を組み、ふんぞり返るように松本課長を見下ろした。


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