これが恋というものかしら?~眼鏡課長と甘い恋~【完】
「誤解しているようだけど、お兄ちゃんは私を閉じ込めているわけじゃないわ。私が外に出たくないだけなの。だからお兄ちゃんを悪く言わないで」

 不満顔の梅さんだったが、事実だから仕方ない。

 元々使っていた離れの部屋を使わせてもらっていないのは、私が心配だからだ。

 兄も議員として忙しい。それなのに私がこちらに戻ってきてから、頻繁にこちらに顔をみせるようになった。そしてすぐに東京へと戻って行く。

 父も母も忙しくであることが多い。そうなれば人の少ない離れよりは、いつも人の気配がする母屋近くに部屋を設けた方が、私が寂しくならないのではという配慮からだ。

 兄は物言いや風貌から、冷酷な人間だと誤解を受けやすい。けれど本当は妹の私をいつも気にしてくれる優しい兄なのだ。

「そうですか……坊ちゃんがお優しいということは、梅も存じ上げておりますが……」

「坊ちゃんって……お兄ちゃんが聞いたらまた怒るわよ」

 そのときのことを想像して、クスクスと笑う。

「やっと笑顔になられましたね。あ、そうだ。まだお茶の時間には早いですが、灘屋(なだや)の豆大福があるんです。朝食もあまりお召し上がりではなかったですから、お持ちしますね」

 梅さんは嬉しそうに、台所へと歩いて行った。

 私が笑っただけなのに、そんなに嬉しかったの?

 でも、それだけ梅さんに心配をかけているということだ。いつまでも沈んでいられない。そうは思うものの、呼吸をするたびに彼とのことを思い出してしまう。


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