王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
瑛莉菜が華奢な指先で空色のラズベリーを摘み上げるのを、弥生はニヤニヤと笑って見つめている。
毎度こうして原稿をダシに彼女に無茶なことをお願いしてみたり、突拍子もないことをさせてみたり。
それが弥生の楽しみであって、今期待しているのは、自分が作った得体の知れない果実を食べた後の瑛莉菜の反応だった。
弥生だって、その実を口に含んだ瞬間、たちまちに瑛莉菜が姿を消し、小説の中に入り込むことなど少しも期待していない。
要はこれは、単なるお遊びだ。
公私共に瑛莉菜を困らせることが、弥生のマイブームである。
瑛莉菜はこれまで何度も、弥生の無茶ぶりを受け入れ、自らの身を差し出して彼の退屈な日々の刺激となることで、原稿を手にしてきた。
苦い初恋の相手との写真を渡したことに比べれば、空色に色づいたラズベリーを食べることなんてなんでもない。
1日くらいお腹を壊してこの男から原稿をゲットできるなら安いもんだ。
(まったく、編集者で遊ぶなっつーの)
瑛莉菜はその実を口元に運びながら、小説の中で公爵の侍女として働く自分をちらりと想像してみる。
そして彼女は、さしたる躊躇もなく、禁断の青い果実を紅い唇の向こう側に放り込んだ。