王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
彼女のパンプスは玄関にあったが、弥生の持っている適当なサンダルを使ったのかもしれない。
「どのくらい戻って来てねーの?」
弥生がここまで取り乱すということは、相当長い時間だろうか。
なにか事件に巻き込まれたのでなければいいが。
「違う!」
はやる気持ちを抑えて玄関に向かおうと踵を返した稀斗だったが、弥生は彼の質問には答えず、その背中にタックルする勢いで飛びついた。
「んだよ、痛ってーな! 違うって何が! 宇野さんいなくなったんだろ!?」
兄の奔放さと適当さには十分慣れているつもりだが、要領を得ない言動につい声を荒げて振り向く。
まだ一度も会ったことはなく、弥生づてに話に聞くだけだったというのに、瑛莉菜がどこかで助けを必要としているのかもしれないと思うと、自然と焦る気持ちを抑えられない。
ふと、テーブルの上にある瑛莉菜の写真が目に入った。
例の初恋の相手と写るその写真は、なぜか稀斗の目に印象深く焼きつく。
「宇野ちゃん、ついさっき消えたんだ! 俺の目の前で!」
「は?」
弥生の言葉が理解できなくて、未だにしがみ付いてくる兄に視線を戻して見下ろした。