王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
エリナにこれまでの男と同じだと思われては困るし、どのみち彼女の心が追いついてくるまでは手を出さないと誓っているのだから、むやみに触れるのはやめようと思ったばかりだった。
特にこんな、ふたりきりのときには。
しかしエリナはキットのそんな決心の逆をつくかのように、ふたりきりのときこそ甘えてくるではないか。
しかももう日は暮れ、屋敷の者は皆自室で休み、朝がくるまで時間はたっぷりある。
拷問だった。
(ちょっとだけ……ちょっとで止まれよ、俺……!)
もちろんこの先ずっと指をくわえて見ているつもりなどまったくないのだが、今はまだダメだ。
男が好きな女を大事にするということが何たるかを、教えてやると決めたのはつい昨日なのだ。
キットはこっそり深呼吸して、己は鉄の理性だと言い聞かせ、情けなく宙に浮いたままだった腕でエリナを抱き込み、もう片方の手でそっと彼女の黒髪をなでた。
華奢で柔らかい身体を抱き寄せ、髪を指に絡めると、めちゃくちゃにしてやりたい気持ちと、大事に守ってやりたい気持ちが同時に呼び起こされる。
キットは全力で後者に耳を傾け、なるべく低く抑えた声で彼女の名前を呼んだ。
「エリナ」
腕の中に囲われたエリナが顔を上げる。