王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

「ゴホン! お初にお目にかかります、コールリッジ嬢。お噂はかねがねお伺いしておりましたが、お会いしてみると実にお美しい方だ。ぜひ次のダンスは私と一緒に……」


互いに牽制し合う男たちの中から一歩踏み出し、そう切り出したのはどこかの伯爵家の息子だ。

身分も釣り合うし、ウェンディに声を掛ける権利もある。


しかしウェンディはそんな男には目もくれず、一際背の高い濃い栗色の巻き毛の男性が、群衆を押し退けてゆっくりと彼女の方に向かって来るのを、固唾を飲んで見守っていた。


「失礼」


男の低く柔らかな声が掛かると、ウェンディのまわりに集まっていた者たちが皆一歩後退り、場所を譲る。

彼は王家の親族にあたり、この国の王太子の従兄弟である。

自らも公爵の爵位をもつ彼に、道を譲らないわけにはいかない。


男はザワつくまわりは無視して、立ち尽くすウェンディだけを見つめ、彼女の前に跪いて乞うた。


「僕と、踊ってくれますか?」


あの日、月明かりの下でいたずらっぽく光った琥珀色の瞳は、今は舞踏ホールの明るい照明を浴びてもなお、切なげにウェンディを見上げてくる。

ウェンディは皆の注目を感じながら、それでも男の琥珀色の双眸だけを見つめ、ウィルフレッドの手をとった。
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