王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
男性が女性の前に跪くというのは、この国では紳士が示す最敬礼だ。
ウィルフレッドはさっきも同じことをしたが、近年の舞踏会ではあまり見られるものではない。
ふたりのまわりにいた人々は、何事かと少し距離を置いて遠巻きに見守る。
もう随分昔の風習ではあるが、舞踏会で踊りを終えた後に、ある男性が女性の前に跪く行為は、求婚の意思があることを意味していた。
ウェンディもそのことは知っている。
そしてその場合、男性は次に女性の名を尋ねるのだ。
「ウィルフレッド・ランスと申します。どうか私に、あなたのお名前をお聞かせください」
ウェンディは息を止めて琥珀色の瞳に見入っていた。
ウィルフレッドは、やり直そうとしてくれている。
もうはちみつを得るという本来の目的は果たしているのに。
それでもここでもう一度出会い、ウェンディの手をとったのだ。
ウェンディなんかよりずっと会話術に長けた彼なら上手い言い訳もたくさん思い付いただろうに、肝心なところで不器用なウィルフレッドが、なんだか愛おしかった。
もう最近ではあまり知られていないこの古風なやり方を選ぶところも気に入った。
不思議なもので、緊張した面持ちのウィルフレッドに不安気に見上げられると、ウェンディの表情には優しい笑みが広がるのだった。