王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
古い風習からすれば、ここで女性が名乗れば、互いの家柄を知り、結婚を前提にお付き合いを始めましょうという意味だ。
相手方の家柄に見合わなかったり、単純に相手が気に入らなければ、名乗らないことで交際を断ることもできる。
近年では政略結婚が当たり前だし、舞踏会の出席者は人伝にどこの誰だかわかってしまうのだが、以前はこの方法で結婚まで決まった男女がわりといたらしい。
昔の人の方がロマンチストなんだな、とウェンディは思う。
そしてウェンディは、ロマンチックなことが嫌いじゃない。
むしろ、いつかはこうして舞踏会で素敵な男性と出会うことを、夢にみていたのだ。
彼女が浮かべた可憐な笑顔があまりに綺麗だったので、ウィルフレッドは息を飲み、思わず感嘆のため息をついた。
「ウェンディ・コールリッジと申します、ウィルフレッドさ……きゃっ!」
ウィルフレッドはウェンディが名乗るのを聞いた途端、即座に立ち上がったかと思うと、彼女の腕を引いて華奢な身体をぎゅっと胸の中に抱きしめた。
「ウィル、ウィルフレッドさま、その……人が……」
さすがにこれは風習でも何でもないので、舞踏会のど真ん中で初めて男の人に抱きしめられ、ウェンディは白い肌を真っ赤に染めて慌てる。