王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
アリスはそんなキットの背中を見送り、自分も覚悟を決める。
ラズベリーを、誰かが盗んでくれればいいのにと思ったのは本当だ。
しかし、それでは足りないのだ。
今年収穫されたラズベリーだけをランバートから遠ざけたところで、結局何も変わりはしない。
あのラズベリーのなる畑がある限り。
(私は……優しい彼が好きだもの)
身寄りのないアリスを救い、ずっと寄り添って育ててくれた頃の、幸せそうな顔をする彼に戻って欲しかった。
何かから逃れるように、派手な女性関係に身を沈め、軽薄さを装う彼を壊したい。
ラズベリーがあるからいけないのだ。
ランバートの魅力は、爵位やあんな果実ではないのに。
一晩中迷っていたのだが、アリスはついに決意を固めた。
エリナのように、明らかに他の男を想っているくせにランバートに近付くなんて、どうしても許せないことだった。
ラズベリーを盗むことで、それを止めようとするキットも。
ランバートのことを、いったい何だと思っているというのか。
たとえランバートが自分を義妹としか思っていなくても、彼には本当に愛する女性と幸せになって欲しいし、ランバートにはその権利がある。
アリスは収穫祭の賑やかな声に背を向け、暗い廊下をひとり、確かな足取りで歩いて行った。