王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
取り乱したアリスは、それでもそこから動こうとはしない。
怯えたように首を振り、震える唇から脈絡のない言葉をこぼすばかりだ。
やはりこの火事は、アリスによるものなのだろうか。
「ラズベリーがなくなればって、ごめんなさい……私、でも……」
アリスはランバートの伸ばした手を掴むどころか、そのままゆるゆると後退する。
エリナの見たところ、彼女は賢く理知的で意思の強い女性だった。
そんなアリスだからこそ、警備に当たっていた者たちの目を盗んで火を付けられたのだろうし、誰一人負傷させることもなく避難させることができたのだろう。
しかし炎の中でランバートと対面したアリスは冷静ではなく、弱々しく見える。
「いいから! とにかくはやくこっちへ来るんだ!」
ランバートが焦れた様子で大声で叫ぶと、俯いていたアリスが弾かれたように顔を上げた。
そしてフルフルと慌てて首を振る。
「ダメなの。私、好きなの。ランバートのことが、兄としてではなくて。だから幸せになって欲しくて、だけど私、もうこんな……あなたにひどいこと……」
アリスはもう完全にパニックを起こしている。
部屋の中に渦巻く火は勢いを失うことなく、天井がパキパキと嫌な音を立てる。