王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
弥生はエリナを安心させようと、肺腑いっぱいに息を吸い込んで身体をまん丸にしながら胸を張った。
弥生は、この世界の神様だ。
その考えはエリナの気分を幾分か楽にしたが、創作がいかにままならないことかは、彼女と弥生にはよくわかっている。
もし、こちらの世界と現実の世界との調和がとれなくなってしまったら。
それはつまり弥生のイメージ通りに小説が出来上がらないということで、物語が破綻してしまうということでもある。
ただでさえ苦戦していたこの物語を、編集者の瑛莉菜を失った今、きちんと完結させることができるのだろうか。
「大丈夫。いつも宇野ちゃんがやってくれていたことを、こっちでやって欲しいだけなんだ。公爵の侍女のエリナとしてね」
カラスはエリナの不安を見透かしたように、能天気な声で言った。
もし彼が弥生そのものの姿をしていれば、瑛莉菜に"お休み"を強請ったときのように、しなを作ってウィンクでもしているところだろう。
そこでふと、エリナはあることが気になった。
「あの、先生はなんでカラスに……? 先生もあの禁断の青い果実を食べたんですか?」