王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
「いやいや、本当はそうしようと思ったんだけどね。あいつが自分で迎えに行きたいとか言うから……」
「あいつ?」
本当に小説の中に入り込むだなんて思っていなかったとは言え、結果的にエリナをこんな目に合わせてしまっていることを多少反省しているらしい。
カラスは居心地悪そうに足踏みをして、言い訳をするように口走った。
「だから、正確には俺はこの世界にいるわけじゃなくて、この姿は仮初めなんだよ。俺は神様だけどさすがに人間の姿はとれなかったし、いまいち自由が利かない」
弥生は両方の羽を広げて自分の姿を見下ろした。
小説の中になんとか自分の意志の通りに動くキャラクターを登場させようと思ったのだが、人間には感情があるし、重要な人物ほど思いのままにコントロールするのは難しい。
悩んだ末、人間関係や設定に縛られることなく自由気ままに動けて、物語にさして支障のないものとして、カラスを選んだのだった。
「つまり、こいつは俺の遣いってとこかな。神様の遣いはカラスって、昔から決まってるだろ?」
「……? そうかな?」
肩を竦めたり胸を膨らませたり、やけに饒舌にしゃべるカラスを見下ろして、エリナは首を傾げた。
確かに、神話か何かでそんな話があったようななかったような……?