王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~

実際には今日はじめて会った人なのに、エリナの記憶の中には、乳兄妹としてウィルフレッドと過ごしてきた時間がある。


エリナがホッとして目を閉じると、ウィルフレッドがそのまるい額にそっとキスを落とした。

幼い頃と、同じように。



* * *



エリナは自室のバルコニーから、月の昇る夜空を眺めていた。


侍女というのは主の身の回りの世話をするものだが、使用人ではない。

主の付き添いとして旅行に出ることもあるし、舞踏会に出席することも稀にある。


エリナの母親のステイシーは今でも現役の侍女頭であるが、彼女はウィルフレッドの乳母であったから、エリナの使っている私室はなかなかにいい部屋であった。


ベッドがあり、小さなソファがあり、机がある。

部屋の奥のバルコニーから差し込む白々とした月の光は、カーテンに煽られて彼女を誘うように揺れていた。
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