王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
つかの間記憶を探るエリナの耳元に、男が唇を寄せ、彼女にだけ聞こえるように囁いた。
「お前がウィルフレッド・ランスのためにコールリッジ伯爵令嬢の居場所を聞き回っていたことはわかっている。あの男は何を企んでいる?」
エリナが鋭く息を飲み後ずさると、ふんわりと広がったスカートが壁と身体の間で押しつぶされた。
男の口元は笑っているが、表情が見えない。
エリナの反応を愉しんでいるのだろうか?
それとも嘲っている?
どちらにしろ、この男の側にはいられない。
「失礼します」
エリナは一応軽く膝を折ってからくるりと背を向け、足早にホールを出たが、後ろから男が長い脚で追いかけてくるのがわかる。
今のエリナがここで頼れるのはウィルフレッドしかいないし、彼がホールにはいないとわかっていたからこそ咄嗟に出て来てしまったのだが、間違いだったかもしれない。
「私の記憶にある限り、あの男がお前を連れて社交界に姿を現したことは一度もない。乙女たちの憧れのランス公爵の特別な女性だと言うなら、あの男の企みと同じくらい、私はお前に興味がある」