王太子殿下の溺愛遊戯~ロマンス小説にトリップしたら、たっぷり愛されました~
抵抗が止まってハッと顔を上げた瞬間、男の手がエリナの仮面に触れる。
「あっ……!」
止める間もなく、知らない男の腕の中で素顔が晒されてしまった。
「ほう、澄んだ夏の空の色だ。お前のその黒い髪といい、ますます興味をそそられる」
エリナの仮面を手にした男は、その瞳の色を覗き込んで満足そうに声をもらした。
男の仮面の奥で、瞳が捕食者の鋭い光を帯びて光ったように見える。
エリナは身体に巻きついた腕から逃れようと身をよじったが、やがて男の腕を振りほどくのを諦めて、仮面の奥で光るその瞳を睨み返した。
男に狩猟本能があるとすれば、これ以上の抵抗は逆効果だ。
「仮面を返してください。そして腕を離して」
男に腰を支えられたまま、両腕を組んできっぱりと告げると、男の少し厚めの唇が歪んで笑い声がもれる。
「どこかのご令嬢にしては強気だな。私は先祖から押し付けられた面倒なラズベリーよりも、お前の方を味見してみたい」
エリナは男を慎重に睨みつけたまま、頭の隅でその言葉の意味を理解した。
(それじゃあ、やっぱり……)