泣きたい夜には…~Hitomi~



分娩室を出ると、


「あれ?慎吾まだいたの?」


不安でいっぱいの向井先生を放っておけなくて一緒にいるなんて本当にお人よしなんだから……。


「ひとみっ、香澄は?……赤ん坊は?」


全身に不安と緊張を漲らせた向井先生が掴みかかるように私の前に立った。


慎吾まで緊張した表情でいっぱいだ。


「奥さんは大丈夫です。赤ちゃんも小さいけど、元気な女の子が生まれましたよ。

先生、おめでとうございます。助けるも助けないも、私には何もすることなかったわ」


そう言うと、緊張感が抜けて無意識に大きな伸びをしていた。


「ひと……いや、浅倉先生!ありがとうございます!!!!」


向井先生は私の手を取ると、大粒の涙を零した。


ここにはいつも冷静な向井先生はいない。


いるのは妻と娘の無事を喜ぶ夫そして父親。



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