Again
朝、出勤して給湯室でお茶の準備をしていた久美に声を掛ける。





「久美、来月なんだけど、一週間の有休を申請したの。休みの時期も外れているから誰とも重ならないと思うけど」

「大丈夫でしょ、心配しないで行って来て。特に目立ったイベントもないし、シーズン前だから、仕事も少ないしね。で、どこに行くの?」





 肘で葵を突き、にやりとする。





 「仁さんがね、来月パリに出張なの。新婚旅行もまだだったから、来ないかって」

 「良かったじゃない。いつ行くのかと思っていたのよ。奥様、頼まれ物をお願い」





 久美の言っているのは、ブランド物を買って来てという事だ。にやけた顔で、葵を見る。





 「仕方ない。買って来てあげよう」

 「楽しみだね。実の所、心配してたんだ。結婚当初は何だか新婚なのに楽しそうじゃないし、目の下にクマはあるし。でも、何か真剣な悩み事なら相談してくるだろうと思っていたから何も言わなかったけどね。いつもと違って、激しく燃えちゃって、遅いハネムーンベビーが出来ちゃったりしてー」

 「……」





 それを聞いて、葵は真っ赤になってしまった。





 「何、赤くなってるのよ。結婚して半年も経ったんだから今さら照れないでよ」

 「……」





 何も言わずに、俯く葵を見て、久美はまさかと、葵にちょっと躊躇しながら聞いた。





 「コホン、えっと、大変聞きにくい事を聞く様ですが、その……まだとか?」

 「……うん」

 「えー!! 嘘でしょ!!」

 「ちょっと! 声が大きいよ!!」





 給湯室から外まで聞こえる程の大きな声を出した久美の口を慌てて抑える。





「ほ、本当に?」

 「……(頷く)」





 驚くに決まっている。結婚しているのだからお見合いとはいえ、体を重ねるのが夫婦だ。それが全くないのだからびっくりされるのも当たり前だ。そんな事を久美にも言いたくなかった。だが、感情が出やすい葵は、顔に出てしまったのだ。





 「やっぱり変だよね? 私、そんなに魅力がないかな? 」





葵は自分の腰に手を当て、おどけてポージングをしてみる。





 「い、いや、普通の男なら、そそらない体つきをしていたって、結婚して、一緒に住んでいるのだから、抱くでしょ」

「そ、そうだよね」





 やっぱり変なのだ。分かっていたことだ。部屋が別の状態であり、敬語の会話が続いている夫婦で、いきなり肌を重ねるのは難しいことだ。分かってはいても、それを口に出して言われると、現実として受け止めなければいけない自分がいる。それが辛かった。

 少しずつだけど変わりつつある二人の雰囲気。だが、その先は険しい。





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