Again
パリに行くまでに、残業が更に多くなった仁は、土曜日の今日も仕事に出かけた。葵は、実家に新婚旅行を兼ねてパリに同行することを、報告に行くことにした。





「こんちは」

「おー、なんだ姉ちゃんか」





相変わらず、テレビの前でゴロゴロと横になっている翔が、寝転びながら、首だけを向けた。





「あんた一人?」

「母さんは隣で掃除、楓は隣で寝てる。父さんは、散歩じゃねえ?」





翔の言う隣とは、ベランダ続きでつながっている、隣の家だ。古い団地を何棟かリノベーションをしている棟があり、家を探しているときに此処が目についたのだ。団地2部屋を借りていると言えばわかりやすい。楓、翔で2DKの間取りを使い、葵と親で3DKの間取りを使っていた。5人家族の立花家にはもってこいの物件だった。家賃も団地で二部屋を借りている割には8万円という破格の値段だ。翔から聞いた葵は、ベランダでサンダルに履き替え、隣に行く。





「お母さん」

「あら、葵。一人?」





掃除機を掛けていた恵美子は、葵の声にスイッチを切った。





「仁さんは仕事」

「土曜なのに忙しいのね。で、今日はなんの用事?」

「用事がなきゃ来ちゃいけない訳?」

「別にー、じゃ、昼ごはん、なんでもいいから作ってよ」

「はいはい」





折角、娘が実家に帰ってきたと言うのに、嬉しそうでも、嫌そうでもない。久しぶりに帰って来て、懐かしい感じはするが、若干落ち着かないのは何故だろう。自分の物もないし、生活の場ではなくなったからなのか。葵にとって家は、仁とのマンションになっていた。

ベランダから生活している方の部屋に戻ると、テレビの前で寝ている翔を蹴飛ばし、キッチンへ行く。





「痛って」

「あんた、バイトは? 大学はちゃんと言っているんでしょうね。もう就活時期なんだからしっかりしてよ」





恵美子もそうだが、翔に関しても、父の会社が倒産する前ののんびりした感じがある。借金を返していた時は、自然と節約オーラが出ていたが、結婚をしたことで、名波家が借金を返済してくれたことが切羽詰まった追われる気分を払拭しているのだ。それは葵の望んでいたことであったため、ほっと安心している。

しかし、つい説教をしてしまう。





「してるよ、うるせえな」

「あっそ、ねえ、お昼、焼きそばでいい?」





冷蔵庫を開けると、焼きそばの麺とキャベツ、肉と、必要な食材は揃っていた。





「うん」





冷蔵庫に掛けてある、恵美子のエプロンをかけ、手を洗って野菜を切る。





「葵、夜ごはんまでいるの?」





掃除機を掛け終えた恵美子が、ベランダからキッチンにいる葵に向かって少し大きめの声で話しかけた。





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