Again
「じゃ行ってくる。来るときは十分に気を付けて」





玄関でいつものように仁を見送る。いつもと違うのは、持っている荷物の大きさだ。





「荷物は持てる? 下まで手伝いますか?」

「いや、これくらい平気だよ」





荷物に手を掛けて手伝おうとした葵を仁は制止した。その制止した時に触れた手を握る。

握られた手は温かかった。



結婚してから長く離れるのは初めてだ。すぐにパリで落ち合う事は分かっていたが、離れ難さに仁は、葵を引き寄せ抱きしめた。





「暫く家を留守にするが、寂しければ実家に帰るといい」

「はい」





いい大人でもある葵を仁は心配した。年が離れていると子供に見えるのだろうか。





「じゃ、いってきます」

「いってらっしゃい。気を付けて」





若干の名残惜しさを残し、仁は玄関を出た。後ろ髪を引かれる思いをしているのは葵だけなのか、寂しさなど感じなく、逆に羽を伸ばそうと思っていた葵だが、それはいい意味で覆された。





「たったの10日間くらいじゃない。そのうちの一週間は一緒のパリを過ごせるのだから、馬鹿ね」





玄関に立ち尽くして、とっくに去った仁を思う。葵の心は仁でいっぱいだ。





「さ、私も仕事に行く支度をしないと」





落ち込んだ気分を振り払うように、自分を奮い立たせ、キッチンへ朝食の片付けをしに行った。

時計を気にしつつテレビを観る。朝の忙しい時間にはテレビに表示されている時間が一番いい。しかし、このマンションで暮らすようになってからは、広すぎていたる所に時計を置かなくてはいけない状況になっていた。団地が実家の葵は、時間が気になれば、少し顔を洗面台から出せば、テレビから時間が分かっていた。





「もう、こんな時間」





男性である仁は支度の時間を余り気にしない。葵が時計を置き始めてからは、時間に縛られているみたいだな、と言っていた。



時間のない時は髪をショートにして良かったと思うのだが、寒い冬の季節は長い方が良かったと思う。

鏡の前で髪に水をかけて寝癖を直す。きっと仁の姉、綾はこんなことはしないだろう。





「よし、後は自然乾燥だ」





広い家をパタパタと走り、リビングに行く。バッグを手に持つと、家の点検をする。





「えっと、テレビは消した、ガスもOK……よし」





仁のいない間に何かあってはいけないと、いつもはしない指さし確認をして家を出た。



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