社内恋愛なんて
「違うんです。怖いんです」


「怖い? 俺がか?」


 彼女は再び大きく首を振った。


俺じゃないとすれば……。


「……セックスが、怖いのか?」


 言うのが少し、躊躇(ためら)われた。


セックスという言葉を使うことがじゃない。


もしかしたら何かトラウマがあるのかもしれないと思ったのだ。


性的被害にあったとか、そういう類のトラウマを想像した。


「違うんです。傷付くのが……怖いんです」


 ――傷付くのが、怖い?


 どういうことなのか、全く分からなかった。


セックスが怖いわけではなく、傷付くのが怖い……。


一体どういうことなのだろう。


だが、嗚咽するほど激しく泣き出し、涙は止まりそうにもなかったので、これ以上言及することはやめることにした。
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