毒舌紳士に攻略されて
「せいぜい楽しんでこいよな」

「言われなくても」

やばい、見つかる!

逃げなくちゃ!

その一心で走り出したものの、背後から聞こえてきた声に足は止まってしまった。

「佐藤……」

驚いたように私を呼ぶ声に、振り返ることができない。

どうしよう……きっと分かっちゃったよね。二人の話を聞いていたって。

ドキドキと高鳴る心臓を抱えたまま、坂井君に背を向けている。
だけど坂井君もなにも言ってこないし、動く気配も感じられない。
それはきっと、さっきの話が全て真実であることを物語っているんだ。……私は坂井君に騙されていたんだ。

感情の糸がストンと収まる感覚だ。
さっきまでぐちゃぐちゃだった感情が、一本の糸で繋がった。

「あれ?なんだよ坂井、まだ行ってなかったの―……え?佐藤?」

「……っ!」

高橋君の声が聞こえてきた瞬間、足が勝手に動きだした。

「佐藤っ!」

後ろから坂井君が追い掛けてくる気配を感じるものの、止まれるはずない。

そう思っていても私の足が坂井君の足の速さに勝てるはずもなく、あっさりと追いつかれてしまい、腕を掴まれてしまった。
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