毒舌紳士に攻略されて
「最低だよ。……坂井君なんて大嫌い」

好きなのに、『大嫌い』という言葉しか出てこない。
本当は今日、『好き』って伝えたかったのに――……。

いつの間にかまた涙が溢れていて、涙が頬を伝った時、腕を掴む力が弱まっていく。
顔を上げれば坂井君は背を向けていた。

「……ごめん」

そして一言そう呟くと、二度と振り返ることなく去っていった。

「どうして……っ?」

角を曲がり姿が見えなくなると、一気に涙が溢れ出してしまった。

どうして最後に『ごめん』なの?
その意味はなに?
やっぱり全てが嘘だったの?私のことなんて、好きじゃなかったの?

“ごめん”

その一言がまたこんなにも私を苦しめる――。


誰もいない廊下には、私の泣きじゃくる声が延々と響いていた。


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