毒舌紳士に攻略されて
そう思うと、彼女がしてくれたことが嬉しくも思えてくる。
自然と腕を掴む手の力が強まってしまった。

「だからその……ありがとう」

素直な気持ちだった。
でも『ありがとう』なんて言葉を口にしたのは、いつぶりだろうか。
少なくともここ最近は口にした覚えはない。

小さい頃はいくらでも言えていたのにな。
大きくなればなるほど、感謝の言葉を口にはできなくなってしまっていた。
それなのに、こんな見ず知らずの今日会ったばかりの女に言えているのだから驚きだ。

だけどいざ言ったはいいものの、彼女からの反応はない。
視線は下に向けたままだから、彼女が今、どんな顔をしているのかも分からない。

照れ臭いのもあってどうしたらいいのか分からず状態だ。
そんな時、さっきのピンクの可愛らしいハンカチが急に視界を捉えた。

「えっ……?」

咄嗟に顔を上げてしまう。
すると彼女は嬉しそうに笑いながら、俺にハンカチを差し出していた。

「良かったら使ってください」

「……っ!」
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