毒舌紳士に攻略されて
言葉が出てこなかった。
いや、それどころか呼吸するのも辛い。
なんだ、これ。

彼女の腕を掴んでいた力は緩まっていく。

胸が苦しい。なのに彼女から目を離せないでいる。
初めて抱く感情に戸惑いを隠せないものの、それでも彼女の笑顔から目を逸らしたくなかった。

「あの、実は私落ちちゃって。……まぁ、もともとダメ元で受験したんで覚悟はできていたんですけど、実際に掲示板に自分の番号がないのを見ちゃったら、やっぱりショックで。……なかなか帰れずここに来てしまったんです」

明るく振る舞うものの、きっとショックだったに違いない。
見ていて分かる。彼女が無理して笑っているってことくらい。

そう思うとまた堪らなく胸が苦しくなってしまう。

「それでその……盗み見るつもりはなかったんだけど、ついあなたの泣いているところを見てしまって」

「そっか」

たったそれだけの理由でハンカチを差し出してくれたんだ。
自分も落ちて辛かったくせに。

いつの間にか彼女の腕を掴んでいた手は離れて、ぶらんと重力で垂れ下がる。
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