毒舌紳士に攻略されて
嘘ではない。これは本当の話。
すると余程興味を持ったのか、先ほど同様身を乗り出してきた。

「好きな人もいなかったの！？高校時代なんて、恋愛してなんぼって時代なのに！」

「いや、一度はしたけど……」

一度はした。
今でも深く傷が残るほどの辛い恋愛を――……。
いや、もしかしたら恋愛していたのは空想の世界でだったのかもしれない。
あの時の私は、まるで現実の世界など見えていなかったんだ、きっと。

「めぐみ？」

「あっ……ごめん」

遠い昔の苦い思い出に浸ってしまっていると、琴美の声に現実へと引き戻される。

「あのさ、明日……なにを着て行けばいいと思う？」

これ以上詮索されたくなくて、話題を変えた。

「そっか、そうだよね！デートだもんね坂井と！」

もっと深く追及されると思っていたものの、琴美の興味はすぐに方向転換してくれたようで、ホッと胸を撫で下ろす。
でもこっちの問題も私にとっては、けっこう重要だったりする。
だってあの坂井君が相手だもの。何を着ていったらいいのかなんて、分からない。
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