メランコリック
「やめてください!」


私は腹の底から言った。力で束縛が外れない以上、大声で周りにわかってもらうしかない。
ホテル街を歩く他人に助けを請うしかない。

すると、私の前に銀色に光るものが突きつけられる。
私の声を封じるために用意されたそれは、何のことはないただのカッターナイフだ。

こんなもので大きな傷はできないだろう。
この男に身体を自由にされるくらいなら、切り付けられようが叫ぶべきだ。

しかし私の決意に反して、身体は立派に竦んでいた。
アルバイトの女子にハサミで髪を切られた時とは違う。
この杉野という男は、私が叫べば頬にカッターを突き立てるくらいは容易にしてのけるだろう。


声が出ない。
恐怖が身体を縛る。

その時だ。


カシャリ。


作られたシャッター音と、明るすぎるフラッシュライトが私と杉野マネージャーを包む。
私は首をねじり、そちらを見た。
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