真夜中のパレード



「困ります」



透子の口からすぐに返事がこぼれる。


そこに一瞬の隙も迷いもないことで、逆に上条も引くに引けなくなった。



「恋人がいるんですか?」

「いえ、そういうのは」

「好きな男性がいらっしゃるんですか?」

「いえ。でも……」


答えてから、どちらかいることにすれば簡単だったと自分の考えのなさが嫌になる。


上条の瞳が、真剣な色味に変わる。


「それでは名前を教えていただけますか?」




透子も彼の真剣な様子に焦り、それくらい教えてもいいかと思った。
助けてもらった恩人に名前も教えたくありませんなんて、さすがに失礼すぎるだろう。



「はい。私の名前は、なな……」


「え?」


はっとして、途中で口を押さえる。


「いえ」


危ない。
迂闊に自分の本名を言ってしまうところだった。


ななせとうこです、と答えたらおしまいだ。


いや、別にそう答えた所できっと上条は同姓同名だと思うだろうが、面倒なことになるのは必至だ。

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