真夜中のパレード
そもそも店に本当に上条が行ってしまったら、自分の嘘がすぐにバレてしまう。
今の自分は『透子』ではなく、『天音』なのだ。
その認識をしっかり持たないといけない。
透子はわざと話題をそらした。
「上条さんは、どんなお仕事をされているんですか?」
「私ですか? 普通のサラリーマンで、つまらないですよ?」
彼に質問を重ねる。
「いえいえ、上条さんのこと、知りたいですから」
そう答えると、上条は恥ずかしそうに顔を赤くした。
「あのぅ……?」
天音が自分に興味を持ってくれたのが嬉しいらしい。
「いえ。天音さんが聞いてくださるなら、いくらでもお話しますよ。
主に電気機器製品の会社なんですけど」
「はい」
彼は真剣に自分のことを語ってくれた。
上条の口から語られる仕事の話は新鮮だった。
内容についてはよく知っていることや、むしろいつもやっていることももちろん多かったけれど。
「生産管理業務が多いです。
今までの注文や在庫のデータを見て、これからの製品の納入を決定するような。
お客様の反応がすぐに分かるので、やりがいのある仕事ではありますけど」
「なるほど。お忙しいんでしょう?」