甘い誘惑~なんだかんだで彼は私の扱いが巧いらしい~
私の反応にガックリ肩を落としていた山門は徐にキッと顔を上げた。

そして、事もあろうか私が手に持っていたチョコチップクッキーの袋を取りあげて、待て!と叫ぶ間もなく口に運んでしまった。


「鬼畜!?誰か飢餓状態の私から食べ物を略取して食べる様を見せつけるこの鬼畜を駆逐して―――!!」

「ひほぎぎわるいえす(人聞き悪いです)」


呑みこんだかと思ったクッキーを口に咥えていた山門が、その格好のまま「ん」と手を広げてきた。


「……え?なぁに、それ。まさか私にポッキーゲームみたいなアレをしろと?」


頷く山門。

えぇ~…。


「イラナイなら食べちゃいますよ?」

「い、要らなくない要らなくない!喜んでイタダキマス!」


ふわふわ漂う甘い香りにうっかり惑わされた私は反射的にそう応えて、早くももぐもぐ口を動かしだした山門に慌てて飛びついた。

大丈夫大丈夫。

適当な所まで食べたらさっさと離れればいいんだから。

そんな算段は口の中をジィンと痺れさせる甘さにあっけなく殲滅した。

糖分万歳!

チョコこそ神!

久方ぶりの糖分にすっかり洗脳された私は唇が触れ合っている事も眼中になく、あまつさえその先に残っている欠片まで奪おうと意地汚くも舌を伸ばしていた。

それを逆に絡め取られてようやく事態に気付く体たらく。


「ン………ふっ……」


口内に残る甘味をも拭って行こうとする舌に私も負けじと舌で対応する。

山門のキスはクッキーに劣らず甘くって頭の芯が蕩ける感覚。
< 5 / 7 >

この作品をシェア

pagetop