彼の濡れた髪
「あぁ。これ……ハマるかも」

張り付く前髪を少し鬱陶しそうに目を細めながらも、ユキはニコリと微笑んで私に一層近づく。

「え……?ゆッ」

そのまま唇を重ねられてしまうと、ますます混乱する。
唯一、熱い彼の唇が一瞬の快楽を私に与えるだけで。

「だって、すごく可愛い」
「なっ、に、を」

知ってる。それはさっきの件での仕返しとか嫌味とかじゃなく。心からそう思って言ってるってこと。
ストレートになんでも口にしてくれるのは、うれしい半面いつもどうしていいかわからない。

「でも」

真っ赤な顔を覆うように両手を添えた私は、またなにか言いかけたユキを見た。

「……カズのヤロウ」

急に険しくなった顔をみて、慌てて頬を覆ってた手をユキの胸に添える。

「や!あれはホントに……!」
「ミキがお願いしたの?」
「う……」

ちらりと見下ろされるユキの目は、私の嘘なんかとっくにお見通しだと言っている。

「……わかった」
「えっ、ちょっ、ひゃあ!」

私を拘束してた腕が無くなったかと思えば、同時にユキに抱え上げられた。
初めてじゃないけど、でもそういう問題じゃない!お姫様抱っこなんて、何回されたって慣れない!

「降ろして」と訴えても、当然却下される始末。
下手に暴れてユキの手を痛めでもしたら仕事に支障をきたすし、変な抵抗は出来ない。

「ゆ、ユキ。ど、どーするつもりっ」
「ん?ミキの希望に答える」
「はっ?」
「どんなのが希望?廊下?ベッド?オレが付き合うよ。壁ドンってやつ」

べ、ベッドって!!

ボッと顔を真っ赤にした私を見下ろして意地悪に目を細める。
そして、ぽたりとユキからの雫にまた芯を熱くさせられて。

「澤井(担当)さんが説明しても全然ピンとこなかったけど。あんな表情(カオ)のミキが見れるなら、たまにいいかも」
「も、もーいいからッ」
「ダメ」

こうなったユキはもうきっと止まんない。
暴走癖は出会ったときからだったから。

カズくん、どうしてくれるのよー!

心の中で叫んでみても、現状はなにも変わるわけなくて。
トサッと大事に降ろされたベッドで今日も私の心は壊れてしまいそう。



おわり
< 6 / 6 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:63

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

姉の身代わりでお見合いしたら、激甘CEOの執着愛に火がつきました
  • 書籍化作品
宇佐木/著

総文字数/127,463

恋愛(オフィスラブ)66ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
――ー仕事が大好き でも、なにかと両立する自信はゼロ。 ――ー祖母が大好き でも、そんな私だから結婚して安心させてあげられない。
BIRD KISSーアトラクティブなパイロットと運命の恋ー
[原題]BIRD KISS―アトラクティブなパイロットと運命の恋―
宇佐木/著

総文字数/111,175

恋愛(純愛)166ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
何度、偶然を重ねたって、 すべてなかったことになるかもしれない。 この想いを、ちゃんと口に出さない限り――。 ■2018.9.3〜10.16
双子ママですが、別れたはずの御曹司に深愛で娶られました
  • 書籍化作品
[原題]二年後の最愛
宇佐木/著

総文字数/114,864

恋愛(純愛)119ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
ごめんなさい。 ありがとう。 さようなら――。 最愛のあなたへ贈った最後の言葉。 だけど、二年経っても、あなたへの気持ちは色褪せていない。 私はそれを誰にも明かさず、この先ずっと秘め続けていく。 2022.9.7

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop