波音の回廊
 (誰かが清廉を陥れるために、毒草をこの部屋に運び入れたのだとしたら……)


 そうとしか考えられない。


 いったいいつ?


 清廉か私、必ずどちらかはこの部屋にいたし。


 留守の際は清廉は、鍵をかける習慣がある。


 とはいえ……。


 召使いたちの出入りもあるし。


 そのうちの誰かが、七重の息のかかった者という可能性もある。


 でも今の私には、どうすることもできない。


 主のいなくなった部屋に一人きり……。


 とっくに油が切れ、部屋の中は真っ暗。


 私は清廉の行く末が心配で、一睡もできなかった。


 窓から空を見上げると、真南の天頂付近にハレー彗星。


 徐々に光度を増しているような気がする。


 あの伝説の実現の日が、徐々に近づいているように思える。


 生まれいずる歪み。


 深まり行く亀裂。


 悪夢がその色彩を増してゆく……!
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