もう一度、あなたと…
「……あっ!たからがひかる!」

隣の部署の新人社員だ。名前は確か……

「違うよ…『宝田 光琉(たからだ ひかる)』…」

呆れ顔で訂正が入った。

「そうそう!宝田光琉!そう言えばそんな名前だった!」

はぁー…と大きな溜息をつかれる。床についていた膝を上げ、軽く埃を落としてから立ち上がった。


「今頃それ言うのか?…今日結婚式だぞ…!?」

「えっ…⁉︎ 誰の…⁉︎ 」
「オレとお前の」
「えっ…⁉︎ 私と…あなたの…!?」

そう言われて気づく。彼が着てるのはタキシードじゃなくてモーニング。それに私の格好もウェディングドレス…。

(…そうだっ!)

思い出して立ち上がる。ドレスの裾を気にしながら、辺りをキョロキョロ見回す。

(あ…あった…!)

部屋の角に立て掛けられた姿見に近づく。
フワッと曲線を描いて流れるドレスの裾は、背中の部分が少し長めになっている。
一見何も施されていないように見えるスカートには、細かいビーズがあしらわれていて、動くたびにそれがキラキラと反射する。

「キレイ…」

溜息が出るような上品さに、つい声がもれる…。
うっとりしたように鏡を見つめる私の側に「たからがひかる」がやって来た。


「似合うよ…」

顔の側に顔がある。ホラーで言ったらちょっと怖いシーンかも…。

「エリカ、ドレス選ぶ時すごく真剣だったもんな。気になるのは全部着て、絶対に後悔したくない…とか言って」

笑う息が首筋にかかる。ゾッとするような生温かさに、思わず身を避けた。

「あ…あの…!」

ビクビクしながら声をかける。すぐ側にいた人がこっちを向いた。

「私…いつあなたと結婚することになったんですか⁉︎ 」

ドレスにうっとりしてる場合じゃない。一番肝心なことを忘れてた。

「私…先月、夫と別れたばかりだと思うんですけど…」

日本の法律では確か、離婚後何ヶ月間かは再婚できないんじゃなかったっけ…と思いながら聞いた。

「何言ってんだよ。エリカは初婚だろう?夢でも見たんじゃないのか?」

大丈夫か⁉︎ …と、額を触られた。

「えっ…⁉︎ 初婚⁉︎ 私、確か大学卒業してすぐに結婚したのよ!22才の時に!今、32でしょ⁉︎ 」

離婚届出した時、厄年だから仕方ないって思ったもん。
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