もう一度、あなたと…
「…杉野さん、四国へ出発する前、会社に顔出されて、俺にこの町のこと、教えてくれたんです。『エリカが好きそうな場所だったから、退院祝いに連れて行け!いい罪滅ぼしになるぞ』…って……」

寝耳に水なことが多過ぎて、何をどう理解していいか分からない。
大体、太一は、私が厄落としの神社巡りをしてると、どうして知ってたんだろう。
それに、この場所が好きそうだと、何故気づいたのかーーーー

「…ここへ着いてすぐ、エリカさんに確認したでしょ。「こういう所好きですか?」って。あれ一応、杉野さんの愛情確認したつもりだったんです。どれ位、別れた奥さんのことを好きでいたか…」

テレビ番組を見ながら、「行ってみたいな…」という言葉を呑み込んだ。
きっとそれを、太一は敏感に読み取ってたんだ…。

(じゃあ…もしかして神社巡りも…?)

食事しながら流れてくるニュースの中で、神社の話題があると、じ…っと見入ってた。
あそこへ行ってみたい…とか、いろいろ考えてたからだ。

「あの人、エリカさん以上に不器用な人ですよね。こんなに愛してるのに、言葉や態度に出さなくて。…四国なんて遠い所へ行ったのも、案外、未練断ち切る為だったのかも…」

ひかるの言葉が胸に突き刺さる。
これまで知らなかった太一の気持ちを、痛い程、思い知らされたーーー。


(太一は…私のこと…ちゃんと見てたんだ……)

いつも知らん顔ばかりされてると思ってた。
背中を向けられ、興味も何も、持たれてないのかと思ってた。
だから、こんな辛いだけの結婚生活…送りたくなくてーーー
別れた方が楽だと思ってーーーー


ポトン…。

玉のような雫が落ちた。
ひかるとの夢の続きに、こんな真実が待ってるなんて、思いもしなかった……。


「……私…」

太一の思いを知らずに断ち切った…。
「もう一度、やり直したい…」と、彼はそう願ったのに……

「何も…気づかない事ばかりで……」

いつもいつもそうだった。
多くを語らない分、太一の気持ちを考えて、考えて…
でも、考えれば考える程、遠くなってく気がして…虚しくて…

言葉で返してくれない太一が歯痒くて…
何もかも一人で決めて…

たった一言…「これでいいか?」って…

「聞いてくれれば良かったのに…それだけで…十分…理解しようとしたのに…」
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